CRMとは、顧客との関係を継続的に管理しながら、得られる収益を最大化していくための考え方です。
一見するとシンプルな概念のように思えますが、その実現は決して容易ではありません。
今回は、私が実際の開発現場で見聞きした経験を踏まえて、CRMと開発現場の間に潜む矛盾について考えてみたいと思います。
CRMのコンセプト
まずは、具体的なシーンを想定してCRMの実践例を確認してみましょう。
たとえば、営業担当者がアプローチする顧客によって、好まれる連絡手段は異なります。
メールでの連絡を望む方もいれば、電話や対面を好む方もいるでしょう。
当然ながら、顧客が望む方法で連絡を取るほうが連絡はし易くなります。
このような顧客の好みや傾向を把握し、その情報をCRMに蓄積することで、より効率的な施策のアプローチが可能になります。

CRMの観点ではセミナーを企画するとき、メールを好む顧客にはメールで、電話を好む顧客には電話で案内を送ることができるはずです。
この場合、全ての顧客に一律でメール集客する場合に比べて、電話を好む顧客には電話でアプローチすることで、セミナーの集客効果を最大化できます。
CRMの世界では、このように顧客との接点から得た情報を活用し、より効果的な施策を展開していくことが理想とされています。
しかし、実際のCRMの開発現場ではこのコンセプトは「机上の空論」になりやすく、矛盾を抱えています。
開発現場で生じる矛盾
先ほどの例では「メールを好む顧客にメールを送る」という戦術が成り立っていました。
この戦術が明確に理解されているからこそ、「顧客が好む連絡手段」という情報項目をCRMに実装できるわけです。
つまり、戦術が先にあり、その戦術を支える情報構造をシステムが実装するという順序が必要になります。
ところが、実際のCRMシステムの要件定義では、この戦術や施策の検討がほとんど行われません。
ビジネス側のユーザーは「どのような施策を想定すればCRMで活かせるのか」を具体的にイメージするのが難しく、一方で開発側もマーケティングの知見を持っていないことが多いのです。
結果として、施策の思想を反映していないCRMシステムが生まれてしまい、このようなシステムは、戦術を支援するという本来の目的を十分に果たせません。

さらに問題なのは、その不完全なCRMを前提に施策を考えるようになってしまうことです。
結果として、施策の幅はシステムの機能に制限され、実行フェーズでは情報が不足し、施策実行を支援するはずのCRMが思考の範囲までも狭めてしまうのです。
CRMは戦術の理解から始める
この矛盾は、CRMに限らずSFA(営業支援システム)など、営業・マーケティング領域の多くのシステムに共通しています。
本来、システムは「施策や戦術を実現するための道具」であるはずなのに、現場ではその逆の順序で構築が進むケースが少なくありません。
もしこの領域のシステム開発に携わるのであれば、まず「どのような戦術を実現したいのか」を明確にすることが重要です。
営業・マーケティング関連のシステムは、戦術を支援するために存在するため、戦術が定まらないまま構築を進めてしまえば、どんなに高機能なシステムでも十分な成果を生み出すことはできません。
CRMを成功させる第一歩は、システムではなく、戦術の明確化から始まるのです。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
