営業においては、「顧客を選ぶべきだ」「あえて売らない姿勢が大切だ」と言われることがあります。
これはマーケティングの観点から、本当に刺さる相手にのみ活動した方が、お互いにとって無駄な時間を費やさずに済み、結果として効率的である、という説明がされることが多い考え方です。
また、顧客満足の観点でも、正しい顧客に販売することが最終的な満足度につながり、長期的に良好な関係を築けると言われています。
一方で、こうした姿勢は「ターゲット外の顧客を一方的に排除する」「営業側が門前払いをする」といったイメージで受け取られることもあります。しかし、実際の現場で起きていることは、そのような単純な話ではありません。
私自身の経験を踏まえると、売らない営業スタイルとは、顧客を切り捨てるための考え方ではなく、有望な商談の受注確度を高めるための行動だと感じています。
姿勢は態度に滲み出る
まず、「不要な顧客には売らない」という姿勢を持って顧客に接すると、その考え方は自然と態度に表れます。
誰にでも売ろうとしている人間だと見なされると、顧客は無意識のうちに距離を取ろうとします。
一方で、「こういうお客様に価値を提供したい」という姿勢が伝わると、顧客は「この人は何でも一方的に売ろうとする営業ではない」と感じます。
この認識は、商談の初期フェーズにおいて非常に重要であり、売り込まれないという安心感が、結果として信頼の獲得につながります。
現実的には完全な拒否になるケースは少ない
それでも、「売らない姿勢を取ることで顧客を逃してしまうのではないか」と不安に感じる人もいるでしょう。
しかし、現実の商談の世界では、サービスを完全な白か黒で判定し、営業側から顧客をお断りするようなケースはそれほど多くありません。
どのようなサービスであっても、ある視点では向いており、別の視点では向いていない、という状況は珍しくありません。
問題になるのは、「どの視点を重視して判断するのか」という点です。
そのため、売らない姿勢を示したからといって、即座に営業側から顧客を拒否することにつながるわけではありません。
また、あらゆる観点で全く適合しないサービスであれば、事前に情報が得られる現代においては、そもそも商談自体が発生しづらいものです。
条件を乗り越える協調関係を生み出す
実際の営業シーンで多く見られるのは、「この視点では難しい」「この目的であれば向いていない」「その使い方であれば導入しない方がよい」といった率直な指摘と、「ただし、この前提条件を満たすのであれば効果を発揮する」という条件提示がセットになるケースです。
この前提条件が論理的で説得力のある内容であれば、それ自体が信頼関係の構築につながります。
さらに、この前提条件のすり合わせ段階で十分な信頼が醸成されていると、商談は「説得の場」から「協調作業の場」へと変化します。
つまり、営業が一方的に顧客を説得するのではなく、「ある条件を満たすのであれば、このサービスを選ぶことが最適である」という共通認識を持ち、その条件を満たすために顧客と一緒に考え、動く関係に変わっていくのです。
この前提条件のすり合わせが、暗黙のうちにサービス検討のプロセスそのものとなり、最終的には受注条件として双方で合意されます。
そして、その条件がクリアされたとき、営業は自然な形で商談を受注することになります。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
