マーケティングスキルが高いと評価される企業の多くは、そのスキルが組織全体の文化として根づいています。
書店に行けば、こうしたブランド企業の本はいくらでも手に入りますし、該当企業の元社員を採用することもできるでしょう。しかし、それでも同じ文化を再現することは簡単ではありません。
今回はこの「文化」を、私自身の経験を踏まえながら、システムの観点からどのように成立させるかについて説明したいと思います。
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全員が同じ方向を向くことで、強力なマーケティングカンパニーが生まれる
マーケティングが文化として根づいている企業はとても強いです。それは単に集団に属して知見が得られるという意味ではなく、一定以上の人数が同じ「マーケティング」という視点、つまり どうすれば売れる仕組みを作れるのか という視点で物事を判断し、意思決定できる点に強みがあります。
特に大企業ほど、意思決定に関わるコストは大きく、効率的に動くことが難しくなります。
部署ごとに異なる事情や視点があり、個人間でもそれぞれの判断軸があります。
例えば、
- マーケティング:販売機会を逃さないため在庫を厚く持ちたい
- 経理・購買:経費削減のため在庫を薄くしたい
といったように、部門ごとの視点はしばしば対立しますが、企業全体として見れば、「より売るためにどう考えるべきか」というもっと大きな視点があるはずです。
マーケティングが強い会社とは、この視点が最適なかたちで文化として企業内に広がり、個々人にまで浸透している企業です。
だからこそ、マーケティング的な観点を取り入れた意思決定がスムーズに実行でき、それが強力な差別化につながっているのです。
SFAなどのシステムを起点にマーケティング文化・言語を導入する
とはいえ、こうした文化が成立している企業のマーケティング体制は“教科書的な正解”として語られがちですが、第三者の企業が同じ状態を目指すのは簡単ではありません。
現実には、既存の文化を捨て、新たなマーケティング文化へコミットしてもらうのは難しいものです。
そのため、マーケティングが強い企業は昔から強く、弱い企業が急激に生まれ変わるケースはほとんど聞きません。
そこで私が推奨するのは、「文化そのものを直接導入する」のではなく、
システムを通じて、無意識にマーケティング的な行動へ誘導し、結果として文化を成立させる
というアプローチです。
人の動きがシステムで決まるなら、システムをマーケティング観点で設計すればよい
人の行動は、システムによってできること・できないことが自然と定義されます。
そのため、使いづらいシステムを作ってしまえば、業務も意識もその狭い範囲に閉じ込められてしまいます。
以前の記事でも述べましたが、マーケティング観点の抜けた要件定義では、企業としてのマーケティングレベルも制限されてしまいます。
逆にいえば、
マーケティング観点をシステムの中に組み込み、そこで生まれた機能をユーザーに自然と使わせることができれば、非マーケ部門にもマーケティング思考を移植できる
ということです。
例えば営業フェーズをマーケティングのフェーズ設計と連動させ、マーケティングにおける心理変化をセールスの進捗と同期させるように実装することで、マーケターとセールスが共通言語で会話できるようになります。

フェーズを通して、営業とマーケの議論は「どんなリードが欲しいか?」という抽象的な内容ではなく、
「課題解決を決意(合意)させるために、どのような施策を実行すべきか?」
という、より本質的なマーケティングの議論へと深まっていきます。
文化を“強要”するのではなく、システムを通して自然とマーケティング的な文化に巻き込むことで、ユーザーをマーケター化できるのです。
要件定義にマーケティング的な発想が必要
結局のところ、システム開発において組織文化に相当する部分をどれだけ具体化し、システムに落とし込めるかが鍵になります。
今回のテーマでいえば、
「いかにマーケティング文化をシステムに実装するか」
が重要です。
そのためには、マーケティング知見を持つ人物が、システムに有効なマーケティング視点を適切に言語化し、要求として提示する必要があります。
全社的にマーケティング文化を育てたいと考えているマーケターの方には、ぜひ「システムを起点に文化を作る」という視点を取り入れてみてください。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
