「ヒアリングが難しい」という声をよく耳にします。聞く勇気が出ない、話題をうまくコントロールできない、といった悩みは多いようです。しかし、これは単純に「ストレートに聞けば良い」という話ではありません。
強引に聞こうとすれば、相手は違和感を覚えますし、こちらへの評価を下げることにもつながります。
むしろ「聞きづらい」と感じるのは自然なことで、情報提供という行為には、基本的に“与える側”と“もらう側”の構図が生まれるため、理由なく情報を求めると、お互いに違和感が出るのは当然なのです。
今回は、私自身の営業やコンサルティングの経験を踏まえて、ヒアリングの本質について解説したいと思います。
ヒアリングとは、情報提供に見合うギブの提示
ヒアリングとは、本来こちらが何かしらの“ギブ”を提示した対価として情報を得るものだと考えています。
優れた知見を持っている、示唆ある提案ができる、と相手が感じてくれれば、違和感なく情報を開示してもらえるコミュニケーションが成り立ちます。

もちろん、「今回のMTGの目的」や「ヒアリングを行う理由」を相手に理解してもらうことは最低限必要です。
しかし、たとえヒアリングの目的が正当であっても、相手側が「十分なギブがある」と納得できなければ、背景となる事実を超えて情報提供してくれることはありません。
つまり、
「有効な提案をしたいので、すべて教えてください」
と言うのは理屈として正しいものの、それだけで相手がすべて話してくれるわけではないのです。
ヒアリングとは、こちらがどんな“カード”を切れるかによって左右されます。
相手がそのカードに価値を感じれば、反応として情報を返してくれる。その繰り返しによって、有効なカードと無効なカードを見極め、ヒアリングを進めることができます。
私は、事前に用意できる“ギブのカード”の数こそが、ヒアリングスキルであると考えています。
ギブのカードは事前に用意が必要
個人でも取り組みやすいギブの一つは、コンサルティングスキルを磨くことです。
相手が気づいていない視点から課題を明らかにし、それが妥当であれば、顧客の視点を新しい方向に導くことができます。
また、ギブを営業任せにするのではなく、組織としてヒアリング力を高める仕組みをつくることも可能です。
たとえば、他社の導入事例や実践的なノウハウなど、営業が“汎用的な手札”として使えるマーケティングコンテンツを用意しておけば、営業担当者は必要に応じてそれらのカードを切ることができ、自然な形で情報のギブ&テイクが成立します。
ギブを前提に商談設計しよう
ヒアリングにおいて大切なのはギブであり、情報提供はギブの対価として成り立つという点を説明してきました。
もちろん、相手がつい口を滑らせるような“小手先のテクニック”も存在するかもしれません。
しかし、それでは長期的な関係構築は困難で、違和感を抱えたままの関係性では、相手は継続的に関わりたいとは思わないでしょう。
大切なのは、ギブによって自然な情報提供が生まれる商談設計をつくることです。
ヒアリングを成功させたいのであれば、事前準備として「どんなギブを提供できるのか」を徹底的に追求する姿勢を持ちましょう。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
