営業の世界には、言い回しや仕草などの心理テクニックを重視する考え方が確かに存在します。
たとえば生命保険の営業では、高度な心理テクニックを駆使して相手の感情を揺さぶり、「もし大切な人が亡くなったら…」といった話題から相手を泣かせてしまうこともあると言われています。
しかし、BtoB営業においては、こうした心理学的テクニックは基本的にほとんど意味を持ちません。
BtoBとBtoCの構造的な違いを踏まえると、なぜBtoBでは心理テクニックの重要性が低いのかがはっきりします。
BtoBでは「法人としてのニーズ」が必須
BtoCの場合、感情が動けば人は商品を買います。
たとえばSNSでTシャツの画像を見て「かっこいい」と感じたら、そのまま衝動的に購入することもあるでしょう。
これは個人の感情が購買行動に直結している状態ですが、BtoBではこのような購買はほとんど起こりません。
BtoBでは、感情が動いた「個人」と、実際に購入を決める「法人」は切り離されます。
たとえ担当者自身が強く魅力を感じたとしても、法人としてのニーズが存在しなければ決裁は通りません。
BtoB営業では、あくまで「法人としてなぜそれが必要なのか」という観点でニーズを捉える必要があります。
目の前の担当者を心理テクニックで感情的に動かすことには、ほとんど意味がないのです。
組織の購買プロセスは心理テクニックが無効
BtoBでは、たとえ目の前の担当者が「この商品を買いたい」と思ったとしても、その先には必ず組織としての決裁プロセスが存在します。
その場に営業が同席できるわけではありません。
顧客の担当者は、自社の上司や関係部署に対して「なぜこの商品を買うべきなのか」を説明し、承認を得なければなりません。
このプロセスで評価されるのは、営業の話し方や心理テクニックではなく、「なぜそれを導入すべきなのか」という合理性です。
どれだけ感情的に盛り上がった商談であっても、社内説明の場では数字やロジックで判断されます。
BtoBの購買プロセスは、心理的な誘導をブロックする構造になっているのです。
ありきたりなテクニックは相手も既知
さらに近年では、こうした心理テクニックは書籍やネットを通じて広く知られています。
たとえば「AとB、どちらを選びますか?」と選択肢を限定して誘導する「ダブルバインドテクニック」を使えば、気づいた相手は「操作されている」と感じ、不快になるだけでしょう。
心理テクニックで優位に立つどころか、信頼を損ない、マイナスのスタートラインに立ってしまうリスクの方が大きいのです。
BtoBでは戦術より戦略を重視
心理テクニックがBtoBで使いにくいということは、裏を返せば、BtoB営業は属人的な話術や先天的な才能に依存しにくい領域だということでもあります。
理屈として購買に値する情報を、適切な顧客に、適切なタイミングで届けることができれば、それ自体が強力な営業になります。
BtoB営業で重要なのは、
「どの顧客に、どのシナリオでアプローチし、どのように購買プロセスを前進させるのか」
「どのタイミングでどのアクションを打ち、ペンディングのリスクをどう回避するのか」
といった、営業活動全体を設計する視点です。
BtoB営業に携わるのであれば、言葉の言い回しや心理テクニックに目を奪われるのではなく、
戦略としての営業プロセスそのものに目を向けるようにしましょう。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
