私は「営業力がある」とされる企業の営業組織について、現役社員やOBの方々にインタビューを行い、研究を進めてきました。
今回は、そうしたインタビューを通して見えてきたフェーズ設計の考え方について解説したいと思います。
フェーズ管理とは
一般的に営業の「フェーズ」とは、商談管理において見込み案件の発生から受注に至るまでを段階的に管理する仕組みを指します。
商談をフェーズごとに分割することで、受注までの進捗を明確にし、分析によって商談の品質管理にも役立てることができます。
高い営業力を持つ組織のフェーズ管理を観察すると、大きく次の2つのアプローチに分けられることがわかります。
- 「買わない顧客に売る」アプローチ
- 「買う顧客を探す」アプローチ
買わない顧客に売るアプローチ
「買わない顧客に売る」アプローチでは、顧客が購買に至るまでの内面的な変化に注目します。
つまり、「どのように顧客の心理や認識を変化させ、購買に向けて導くか」に重点を置いています。
そのため、課題を「認識しているだけ」なのか、「解決に向けたコミットを伴っている」のかといった、顧客の内面を丁寧に把握し、その状態に応じた適切なアプローチを検討することに注力します。
この手法では、購買に向けた課題の合意など、顧客の内面の変化に応じてフェーズを進行させ、フェーズが前進したということは、購買に向けて顧客の状態が大きく変化したことを意味します。

「買わない顧客にいかにアプローチし、心理的な変化を促すか」を重視するため、一つひとつの顧客接点の深さを重んじるスタイルが適しています。
買う顧客を探すアプローチ
一方で、「買う顧客を探す」アプローチでは、購買のシグナルとなる顧客のアクションの数と質を見極め、本当に購入に至る可能性が高い顧客に集中し、その他の顧客の優先度を下げます。
たとえば、購買に向けた予算の確保や、決裁者との商談設定などに基づき顧客の購買意欲を判断し、どれだけ購買に関連するアクションを確認できたかによって、フェーズを進行させるのです。
フェーズが進むということは、「本当に買う顧客」であることを示すシグナルが増えたことを意味します。

そのため、買わない顧客を時間をかけて説得するよりも、買う顧客を効率的に見つけることを重視し、接点の広さを意識するスタイルに適しています。
アプローチ選定の視点
どちらのアプローチを選ぶべきかは、扱うサービスと解決する課題を利用する顧客自身がどの程度理解しているかによって判断できます。
買わない顧客に売るアプローチ
サービスと関連する課題を顧客が十分に理解していない場合は「買わない顧客に売る」アプローチが有効です
たとえば、VRゴーグルを販売するケースを考えてみましょう。
VRゴーグルは、装着することで仮想現実空間を体験できる比較的新しいサービスです。
このサービスはまだ一般的に浸透しておらず、顧客が「どのような課題を解決できるのか」や「VRゴーグルとは何か」を十分に理解していないことが多いと想定されます。
たとえば不動産事業者の場合、VR空間で建物の内覧を行うことで、「建築前の建物のリアルが顧客に伝わらない」という課題を解決できます。
しかし、多くの顧客はその課題自体を明確に認識していなかったり、VRによる解決をすぐには結びつけられなかったりします。
このようなケースで「買う顧客を探す」アプローチをとっても、顧客はそもそも課題やサービスを理解していないため、非効率です。
したがって、顧客に課題を共有しながら心理変化を促す、「買わない顧客に売る」アプローチが有効となります。
特に法人向けのITソリューションのように、新しいコンセプトを扱う場合には、この考え方が重要になります。
買う顧客を探すアプローチ
サービスと関連する課題を顧客が十分に理解している場合は「買う顧客を探す」アプローチが有効です
法人向けに携帯電話を販売するケースを考えてみましょう。
携帯電話は「外出先での意思疎通」という課題を解決しますが、この課題やサービスの関係性は、顧客にとって理解しやすいものです。
そのため、課題の啓蒙や携帯電話による解決の合意形成を図るよりも、決裁者との商談設定など「本当に買う意思がある顧客か」を見極める方が合理的です。
もし顧客に課題が存在しない場合は、説得に時間をかけるよりも、課題を持つ可能性のある「買う顧客を探す」アプローチが有効となります。
こうした理由から、携帯電話の普及期には飛び込み営業やテレアポが盛んに行われていました。
自社のフェーズを検討しよう
今回は商談フェーズ設計の考え方について解説しました。
フェーズ管理には複数の手法が存在しますが、サービスと課題に対する顧客の理解度を基準に考えると、自社に合った方法を見つけやすくなります。
「買わない顧客に売る」のか、「買う顧客を探す」のか。
自社のビジネスモデルを踏まえて、どちらのアプローチが最適かを考えてみてください。
流行や他社事例に流されることなく、自社にとっての理想的な営業フェーズ設計を、自分たちの頭で考えることが大切です。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
