BtoB領域では「データドリブンなセールス」を掲げてデータ分析を行う動きが広がっています。しかし、実際にはその分析が机上の空論に陥ってしまうケースが少なくありません。
かつてはBtoB営業やマーケティングにもデータサイエンティストが投入される時期がありましたが、いま振り返ると、あの流れは一周回って落ち着いたのではないかと感じています。
本記事では、なぜBtoBのデータ分析は机上の空論になりやすいのか、そして現実的なアプローチについて、実務の視点から整理していきます。
机上の空論となりやすい理由
1. システム投資が先行しやすい
営業DXやデータドリブンという言葉だけが先走り、何をするかが定義されないままシステム構築が進んでしまうケースは非常に多いです。
本来であれば、「こういったデータが取得できれば、こういう事実がわかり、こういう施策ができる」という順番で考えるべきです。
しかし現場では、施策が不明瞭なままシステムを作り始めてしまうため、必要なデータが取得できない構造になりがちです。
この点については、以前のCRMのコラムでもマーケティング戦術の観点で述べていますので、ぜひ参考にしてください。
2. データ収集そのものが難しい
BtoB領域では、Web経由のデータ収集の難易度がとても高いです。
例えばサングラスを扱うBtoCのECサイトであれば、サングラスのページを訪問するユーザーの多くは潜在顧客になります。
極端に言えば、競合メーカーの担当者でさえ「個人としてはサングラスを買う可能性がある」ため、データ分析の対象になりえます。
一方、BtoB のサイトでは、
- 訪問している人物が購買に関与するとは限らない
- 学生、競合、パートナー、営業調査目的の人物などが混ざる
- 行動データが「購買意志」と直結しない
といったケースがあり得ます。
つまり、Web上の行動データに分析対象にすべきではないユーザーが混ざるという問題があるのです。

また、仮に訪問者が購買に関与する人物だったとしても、その訪問目的が「商談獲得のための事前調査」であれば、自社の施策検討に役立てることはできません。
結果として、BtoCで一般的なWeb行動データの分析手法をそのまま導入しても「うまくいかない」という状態になります。
3. 営業の現場感という壁
では、Web上の行動データではなく、CRMデータを参考にデータを分析するとどうなるでしょうか?
実は、BtoBのデータ分析が机上の空論になりやすい最大の理由が、この際に生じる「営業の壁」なのです。
営業は常に顧客と接しており、購買行動や意思決定プロセスの“リアル”を肌で感じています。
そのため、データ分析で得られる知見は、多くの場合、現場で既に把握している暗黙知の言語化に過ぎないという印象を持たれます。
一方で営業の現場感覚と異なるデータを伝えると、受け入れづらい状態となりやすいのです。
つまり、
- 営業が既に知っていること →「それは前からわかっていた」
- 営業が知らなかったこと →「相関はあるが因果はない」「現場の感覚とは違う」
と評価されづらい構造になっています。
暗黙知の「差分」を可視化するという突破口
私が考える現実的なアプローチの一つは、CRMデータから得られる“新しい事実”ではなく、“暗黙知の差分”を可視化することです。
暗黙知とは長年の経験から生じており、その理解と活用のレベルはベテランと新人では大きく異なります。
そのため、暗黙知として知っているだけなのか、知った上で行動できているのかといった違いが、人や組織の内部に生じています。

例えば、「9月に予算が固まり始めるため、この時期に提案数を増やすと受注率が上がる」という暗黙知を現場の多くの営業が知っているとします。
この時、「部門Aは9月の提案数が他部門に比べて極端に少ない」という差分の事実は、施策立案に大きな意味を持つのです。
「みんな知っている。でもできていない」部分を提示することが、BtoBセールスの分野では地に足のついたデータ分析の活用つながります。
可視化されていない重要な差分に注目し、データドリブンな仕組み作りを目指してください。

ソフトバンクに新卒入社後、法人向けセールスとしてキャリアをスタート。その後は法人マーケティングチームの立ち上げに携わり、ユーザーとしてSalesforceの活用を経験。以降、アビームおよびPwCにてSalesforceを中心としたCRM領域のDXプロジェクトに参画。構想策定から要件定義、開発、実装まで、幅広いフェーズでシステム導入プロジェクトに従事
